ギョッとするような造形の怪物の画像とともに、Facebookの映画コミュニティで紹介されているのを見かけた「パンズ・ラビリンス」(2006年)。
その怪物の造形は、恐ろしいのに親しみが湧くような不思議なもので、作品のことが2−3日頭から離れない。
ちなみに見た画像はこれ。

あれ、なんだこれ、手前のこの…人じゃないよね、なんかちょっとグロ…。
調べてみると、監督はギルレモ・デル・トロ。アカデミー賞受賞作らしい。
広告ポスターはこれ。

あれあれ?ファンタジーかな?
さらに調べると、これ。

うぇい!こわい!!びっくりしたー!!
ホラーは嫌いなんだけどファンタジーは好きだし、なにより興味がありすぎるので自分を励まし恐々見てみることに。
がしかし、配信されていない。
近所のレンタルビデオ屋さんに電話して、9号線のビデオ1に置いてあるとのことで借りてきた。
レンタルビデオ屋さんに人っこ一人いなくて、仕事帰りの深夜に作品探してる時間が一番怖かったかもしれない。
どんな映画?
本作で描かれるのは、スペインの内戦下で生きる人々。
1944年のスペインは平等を支持する左派と、それまでの体制を維持しようとする右派とが対立していた。
主人公である少女は内戦で実父を亡くしたが母が右派の指揮官とデキ婚で再婚することとなり、彼が指揮を取る駐屯地へ赴くところから映画が始まる。
物語のメインストーリーは、少女が駐屯地の端に見つけた迷宮の案内人”パン”から出される試練に挑戦する様を描く。
“パン”は、少女が地底の国の王女だと言うのだ。
少女は半信半疑ながらも、”パン”の指示に従い試練に立ち向かう。その先に待つものとは。。
ハッピーエンドなのか
少女の空想とも捉えられるストーリーの展開から結末に、ネットにはさまざまな解釈が繰り広げられている。
この映画は、悲しい物語なのか、ハッピーエンドなのか。。
ここからは、映画を見ての考察を書きたいので、映画を観るつもりの方は一旦読むのをやめて、作品を観てから続きを読んでいただきたい。
ネットを見る限り、物語の考察として多かったのは、「パンは少女がつらい現状から逃れるために作り出した妄想である」というもの。
映画の終盤、義父にパンが見えなかったことからそのような考察になると。
しかし、わたしは物語の冒頭にあるこの一節が心に残っている。
昔むかし 遥か昔
嘘や苦痛のない魔法の王国が地面の下にあった
その王国のお姫様は人間の世界を夢見ていた
澄んだ青い空や そよ風や 太陽を見たいと願っていた
「嘘がない王国」の物語。これを信じるかどうかで物語の解釈は真逆になるように思う。
「嘘がない王国」の住人であるパンの発言には嘘がない。とすれば、少女とパンのやりとりに嘘はないのだ。
すべてが少女の妄想であったとしても嘘はない。つまり、何を信じるかは少女に委ねられており、ハッピーエンドか否かは少女が決めて良いのだ。
ひいては観客がそれぞれに決めて良い。
ただ、最初にあるメッセージは「嘘はない」ということなのだ。
これ、生まれ変わる話ちゃうかな。
つらい現実を生きる少女と、魔法の王国の王女。これは成長途中の自分と、試練を超えた先にいる成長した自分との比喩にも思われる。
魔法の王国の王女=自分の望む未来の自分像であると考えてみる。
「こうなりたい!」と願う自分の心には嘘がなく苦痛もない。嘘がない=本心からそうなりたいと願い行動にも淀みがなく、苦痛もない=夢中になっている時には苦をも感じない。
また、成長前の自分(作中では「決して食べてはいけない」と言われた食卓の果物を食べてしまう愚かな自分)と、成長した自分(夢も命も投げ出し赤子を守る自分)は同時には存在できないということが、少女の死をもって描かれているのではないだろうか。
夢を追うものに立ちはだかる「3つの試練」
パンから出される試練は3つ。これは夢を追う人の成長の道、ビジネスの成功の道にも思える。
1つ目試練はものすごく泥臭い。少女であれば怯みそうな試練にも関わらず、愚直に挑み難なくクリアできる。これは、夢を追いかけて初速のついている状態。
2つ目の試練は誘惑にさえ負けなければ、本来危うさがないもの。これは、ひととおり仕事の理が分かりうまく回せるようになったため、今までは見向きもしなかった欲に目が眩んだ状態。
そして、欲に目が眩んだ結果、自分を助け支えてくれる妖精の命が犠牲となる。仕事で言えば、「これくらい大丈夫」と決め込んで取り返しの損失を生んでしまった状態だろうか。
この時、少女は言い訳をする。そして、夢に拒絶されるのだ。
やがて訪れる最後の試練では、夢が自分に残酷な試練「自分のために無垢な命を犠牲にする」を課してくる。しかし、2つ目の試練で命を失う経験をしたこともあり、少女は考える間もなく無垢な命を犠牲にすることを拒絶する。これは、利益やリスクを考える以前に「ダメだよこれは」と直感的に判断できる状態。
そして、苦痛に勝ち・誘惑に勝ち・自分が良ければそれでいいと言う心に勝った時、少女は生まれ変わる。
この世界線で行くと、今まで現実だと思っていたステージこそがファンタジーであり、本当に自分がいるべきステージに辿り着いたハッピーエンドということになるのだ。
不思議だね
こんな感じで、わたしの感想としては素直に「少女が王女様になれてハッピーエンド」だ。
本人にとってはハッピーエンド(というか、エンドでもない)でも、側から見たらバッドエンドであることもある。そんなメッセージも込められているように感じる。
映像の情報としては「いやいや、全部妄想で悲しい少女の物語でしょ。。」という感想になるのもめちゃくちゃよく理解できるけど、心象としては、やっぱりハッピーエンドなのだ。
配信されてないので観るハードルが高い作品だけど、気になった方はぜひご覧いただき感想を聞かせてもらいたい作品。
というわけで、仕事がんばろう
そんなこんなで、最後は「真面目に愚直に仕事頑張って、立派に生まれ変わりたい!!」と思った2024年12月なのでした。
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